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個人事業主が従業員を雇用する際に必要な3つの重要書類とは?
個人事業主として事業を開始する時、まずは自分1人で始めることが多いのではないでしょうか。
ただ事業の性質上、個人では困難な場合や家族などの協力が得られる場合については、従業員として雇用して事業を行う場合もあります。
その際には、事前に関係各所に提出する必要書類などがあります。
今回は、従業員を雇う時に必要となる書類、また同時に提出しておいた方が良い書類について解説します。
目次
開業時ならびに従業員雇用時に必要な提出書類について
個人事業主が開業して事業を開始する時に提出するべき書類には、主に3つあります。
1.給与支払事務所等の開設届出書
2.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
3.所得税のたな卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
この3つの書類はそれぞれ個人事業主として事業を行う上でとても重要の意味を持っています。
給与支払事務所等の開設届出書とは
手がける事業に必要な人員を雇用する場合、提出する必要があるのが「給与支払事務所等の開設届出書」になります。
「給与支払事務所等の開設届出書」とは、従業員を雇って給与を支払う事業主が、税務署に提出しなければいけない書類です。
事業を拡大して途中から従業員を雇った場合、最初から従業員を雇って事業を始める場合のどちらも必要です。従業員とは青色事業専従者やパートタイマーなどのことです。
従業員を雇って給料を支払う場合、従業員に代わって税金を納めるため、その給料から所得税分を差し引かなくてはいけません。
そうした個人事業主を給与支払事務所等と呼び、給与支払事務所等の開設届出書を提出する必要があります。
この書類を提出しなければいけない理由は、雇用主が従業員の給与から所得税分を予め天引きして預かり、従業員に代わって国に納める制度「源泉徴収」があるためです。
届出書を提出すると、税務署から源泉徴収した所得税を納付するための用紙が送られてきます。そして雇用者は、その手続きに沿って納税するしくみになっています。
もし、届出書を出し忘れてしまった場合、ペナルティとして税金を多く支払うことになってしまう可能性もあります。
そのため、従業員を雇うようになったら忘れずに届出書を出すようにしましょう。
給与支払事務所等の開設届出書の提出に際しての注意点
給与支払事務所等の開設届出書の提出については従業員を雇用した後に提出すれば問題ありません。
なお次ような場合には、届出書を出す必要がないと勘違いすることもありますが、どのケースでも届出書の提出が必要になります。
間違えないように注意してください。
<以下の場合も給与支払事務所等の開設届出書が必要>
・従業員に支払う給与が小額で、源泉徴収の必要がない場合
・従業員が家族(青色事業専従者)である場合
・法人で、自分(社長)以外に従業員がいない場合
なお提出の時期や提出先については以下の通りです。
提出先
給与支払事務所等の開設届出書の提出先は、給与支払事務所の所在地を管轄する税務署です。
ほとんどの場合、個人事業の納税地を管轄する税務署、会社の所在地を管轄する税務署と同じだと思って問題ありません。
提出期限
提出期限は、給与支払事務所の開設の事実があった日から1ヵ月以内です。持参もしくは郵送します。
様式
届出書の様式は以下のようになっています。国税庁のWebサイトから、「記入上の注意」がついた書類をダウンロードできます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書とは
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は従業員の給料から天引きした所得税をまとめて支払うように申請できる書類です。
本来、従業員の給与から源泉徴収した税金の納付は毎月1回行わなくてはいけないものです。しかし従業員が常時10人未満の小規模な事業者に限っては、この申請書を提出することで、優遇処置が受けられます。
従業員の給料から天引きした所得税を、7月と1月の年2回にまとめて支払うように申請することができます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書作成時の注意点
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は提出義務はありませんが、一緒に提出も行っておくと便利です。
小規模事業者にとっては毎月必要となる源泉徴収などの経理業務は煩雑になりがち。そのような問題を是正してくれるすばらしい制度です。
この申請書の提出期限は特に定められておらず、提出した翌月以降に支払う給与からこの制度が適用されます。
要件にあてはまる場合は、給与支払事務所等の開設届出書を提出する際に、あわせて出しておくといいでしょう。
提出先については、事務所や店舗の所在地の税務署となります。
なお余談として従業員への給与は、月額8万8千円未満であれば源泉徴収をする必要はありません。
給与が8万円から9万円の従業員に対して、月額8万8千円未満に抑えると徴収の手間がなくなります。
必要な人材や仕事内容も含めて、適正な給与金額を決めるようにしましょう。
所得税のたな卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書とは
「所得税のたな卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」は、所得税のたな卸資産の評価方法や減価償却資産の償却方法を選択できるようになる届出です。
事業において、商品や製品、原材料などの棚卸し資産の評価方法には、「原価法」と「低価法」があります。
原価法とは、残った在庫を購入した際の原価を基にして計算する方法です。低価法とは、対象の在庫を購入した際の原価とその時点での原価を比較して、いずれかの安い方を用いる方法です。
通常、届出を行わない場合には原価法が採用されます。
また時の経過とともに価値が減っていく固定資産を減価償却資産といい、償却方法には定率法と定額法があります。
減価償却とは、一時的な支出を、耐用年数(使える年数)に応じて少しずつ分割して費用化することです。
減価償却の計算方法は一般的に「定額法」と「定率法」という2つの計算方法があります。
個人事業主やフリーランスは、基本的に「定額法」という方法で減価償却を計算しますが、この届出を出すことによって「定率法」という方法で計算することができます。
所得税のたな卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書を提出した方が良い場合
この減価償却について2つの計算方法の違いは、基本的に定率法は初めに大きく経費を計上してその後徐々に経費の金額が小さくなっていくという方法なのに対して、定額法は名称の通り一定額を按分して経費計上していく方法です。
最終的にはどちらの方法を使っても、総額に違いはありません。
ただし、定率法は減価償却の対象になるものを購入した年に按分金額が大きく、徐々に金額が減少していく方法なので、早いタイミングで節税をしたいと考えている場合は定率法を適用した方がお得になる場合が多いです。
そのため、事前に高い利益が計上できる予定が立っている年度中に、車両などの大型投資を行う計画がある場合などについては、所得税のたな卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書を提出して定率法の申請ができるようにしておくと良いでしょう。
まとめ
個人事業主として事業開始はもとより、事業が軌道に乗り始めて業容が拡大してくれば徐々に従業員を雇用するような場面も出てくるでしょう。
また取り扱い商材が広がってきたり、事業利益が上がってくるようになれば、様々な対策も必要になってきます。
そのような際に、適正な手続きを行い、極力煩雑な経理業務などから解放されるために、この記事内容をしっかりと理解しておくようにしましょう。
- Written by HIRO
- 個人事業主や法人関連のビジネスや税務記事、ウェブ関連ビジネスやSNSマーケティングなどを中心に執筆しています。